昨日、Anjar(アンジャール)にあるSOMAIYA(ソマイヤ)と呼ばれる非営利団体に伺いました。

SOMAIYAは、カッチの伝統工芸家のためのデザインとビジネス教育研究所で、織り、ブロックプリント、天然染色、バティック、バンダニ、刺繍、アップリケ、パッチワークなどを扱っています。

主に、カッチの職人の家で育った若者が学生として通っていて、この場所でデザインやビジネスを学び、実際に各家系の工房で制作、を一定期間繰り返します。海外からのインターン生も受け入れているようです。

昨日は、今年度の学生さんの卒業式で、御関係者のご挨拶の後、卒業制作にあたるファッションショーも見てきました。

創立メンバーと御関係者様


急遽前日に決まった予定だったので、まずは制作予定だったアジュラクプールに行って諸々のことを。

おやつ貰った


その後、織物で有名なブジョディのシャムジさんの工房へ。以前に伺ったのはコロナ前なので、久々の訪問です。今日のイベントに誘ってくれたマイティリさんと、彼女をここまで送迎したSIDR craftのジャバールさんと落ち合います。マイティリさんは、カッチの布をリサーチしに来たフランス在住のインド人で、一昨日アジュラクプールで初めてお会いしました。

平和そのものな工房


布を広げながら少々雑談した後、シャムジさんの車でいざアンジャールへ。シャムジさんとはイベント等で何度かお会いしてますが、ゆっくり話すのはこれが初めてかもしれない。

車内では、シャムジさんのこれまでの活動や、今の若者の工芸への向き合い方のスパンが短くなっていること、カッチの職人さんの中でもカトリコミュニティと織りのコミュニティで制作方針が結構違うことなどが議題に。普段、カトリの方々や、Shrujanのスタッフとばかり関わってきたので、なんだか新しい畑を覗いたような感覚で聞いていました。

しばらく車で走ると、そこだけ明らかに雰囲気が違う建物が、ポツンと建っているのが見え、中庭では豊かで丁寧な生活を送っていそうな大人達と、愛想の良い英語が堪能な若い女性陣が談笑していました。

SOMAIYA


前半のセレモニーは、SOMAIYAの創立メンバーや御関係者のスピーチ。教育プログラムなどに関わっているシャムジさんと、ドクターイスマイルカトリ氏も登壇。

スピーチは英語が少なく、残念ながら内容が分かりませんでしたが、話し方に、これでもかという程の抑揚があり、高頻度でマイクが音割れするほど声が大きいので、日本とは違うなぁ、やはり穏やかなトーンの方が落ち着いて聞けるなぁと思う一方で、こちらがワールドスタンダートなのかもしれないなぁなどと考えていました。

イスマイルさんと学生さん


後半のファッションショーは、ブロックプリント、織り、バンダニの制作物が大半で、各学生が5着前後仕上げたものをモデルさんが着用してお披露目。カッチの音楽団の生演奏付きです。普段見ている伝統的な手法で作られた布も、ファッションになると見え方がガラッと変わるし、どうやったら良く見えるのかを考える良い機会でした。

ファッションショーが進むにつれて観客も増えていって、20時を過ぎる頃には沢山用意されていた椅子席も足らなくなり、いつの間にか立ち見の人だかり!学生の親族の職人さんも集まってきていて、大盛況の夜でした。

結局22時過ぎまで会場にいました


ファッションショーが終わり、シャムジさんや、途中から来てたSIDR craftのアブドゥラさん、そしてマイティリさんと、このイベントについて感想などを言い合い、そこでのシャムジさんの発言が意外なものでした。

シャムジさんは、この教育プログラムに10年以上関わっているそうですが、年々クオリティが落ちていると。それってどういうこと?と聞いたら、作品の質自体は上がっているけど、クリエイティビティや新しいアイデアは、出なくなってきてる印象だそう。

詳しく聞いていくと、10年前は、このプログラムに参加する人がとても少なく、むしろ団体から若者をお誘いするぐらいだったけど、そこで参加した学生は新しいものを生み出していたそうです。

これは私の感想ですが、直ぐに新しい”何か”が出てくる環境では無いと、正直思います。美大受験のように、全国から違う文化圏を持った者が受験を通して集まっている訳では無く、職人の家系で育った若者が、条件無しで学べる場であり、誤解を恐れず言えば、普段見ているものや、作っているものも、似ているのだと思います。

工芸に限らず、こちらの個人商店って、物でも食べ物でも、何か他店と大きな差異がある訳ではなく、似たような物を似たような店が売っていて、それでちゃんと成り立ってる感じがする。

そのような環境で、これだけのファッションショーが開催できて、溢れんばかりの人を動員しているのは、個人的には凄いと思ったのだけど、むしろ、10年前は一体どんな若者が学びに来ていたのだろう。

シャムジさんは、次なる教育プログラムに関して、色々策を講じている様でした。彼のように、様々な国で様々な人や物に触れて、手を動かし続け、地域の工芸に還元する職人さんって、とても貴重なんだろうな。

シャムジさんに限らず、カッチは様々なタイプの職人さんが、宗教やライフスタイルを超えて、共存していることが本当に凄いと思うし、且つ私のような得体の知れない小娘も受け入れてみたり、外のコミュニティから来た人の意見を一旦ちゃんと聞いてみたり、その上で当たり前に伝統は踏襲する堅実さ。彼らのバランス感覚にはいつも感心します。

こちらのムスリムの方達は、宗教観による家庭やコミュニティでの男女のバランスと、仕事でのそれを、しっかり別物として捉えているようにも見えます。実績も名声もある大人の男性職人が、よそから来た若い女性の意見をじっくり聞いているのを見ると、私は寧ろ違和感を抱いてしまう。それに違和感を抱いてしまう私の方が、きっと毒されているんだろうな。日本で実績ある年上の男性職人さんに、何か一方的にアドバイスをしようとは、中々思えない。私のこの態度は、良い循環を生み出すことも無さそうだ。そこら辺、もう少し改めないと。

色々思うことがあるファッションショーでしたが、若手の成果を、周りの大人がしっかり観察する機会を設け、工房に何かしら新しい風を吹かす仕組みは素晴らしいです。その様なサイクルを回し続けているSOMAIYAも、理想が高くて、素敵な大人達が集まってるんだろうな。余裕のある人が、工芸やアートにリソースを割く流れを垣間見て、改めて、カッチって強いよなと思う夜でした。